Shinkenchiku 2006:08

ベルリンー東京/東京―ベルリン

今年1月から5月まで森美術館での展示後、展覧会<ベルリン-東京/東京-ベルリン>はベルリンにある新国立美術館に場所を移した。この展覧会では東京とベルリンという、似て非なる街同士の文化的対話が詳細に記録されている。入館するとまず、来訪者は地下に展示されている過去150年に渡る圧倒的密度のベルリンと東京の文化交流史に遭遇する。門外不出の貴重なアートワークを含む、絵画、建築、グラフィック、写真、ビデオ、パフォーマンスなど530余りの作品群は、年代順に5000m2の地下室に余すところなく展示されている。

我々のデザインによる地上階展示場では、地下展示場の高密度とは対照的に、たった十数名の現代アーティストの作品によって今日のベルリン・東京の様々な関係が展示される。

1968年に完成した新国立美術館は、ミース・ファン・デル・ローエ作品の中で最もモダニストの理想が実現された作品であると言えるだろう。果てしなく広がるユークリッド的空間から切り取られた完璧な正方形と外界の間には透明なガラスの境界があるのみである。無限と思える空間の均質な透明性は、この美術館に潜在する可能性である。一方で、床と天井のデカルト・グリッドは空間を計り知れない存在感で圧倒する。空間を支配するかのようなグリッドに従って、あるいはそれに対抗して壁を作るのではなく我々はグリッドを参加者全員が空間デザインに携わることを可能にする緩やかな枠組みとしてとらえた。従って展示空間は一個人の独断によるトップダウンのデザインではない。デザイン初期段階から重ねられたアーティスト、キュレーター、建築家による緊密な協議の中で、ミースのデカルト的グリッドは徐々に、波打つランドスケープへと生成されていった。こうして、ミースの絶対的空間は流動的、相対的な展覧空間へと溶解していくのである。

展覧会場を訪れた人々は、マウンドの連なるランドスケープとなった展示空間を自由に歩き回る。決められた順路はなく、来訪者一人ひとりの目前に無数の予期せぬ発見や出会いが展開する。うねるマウンドを登ったり下ったり歩き回ることで見る者のアートワークに対する認識は流動的に変化し、来訪者達はベルリンと東京の多様な関係を限りなく発見する。

初期のコンセプトづくりからオープニングまでのたった6ヶ月の間、アーティストとキュレーターのフィードバックを反映したデジタルモデルの変更は施工直前まで絶え間なく続いた。digitalからphysicalへの移行の即時性は、模型と実際に展覧会場に建設されたランドスケープとの境界を曖昧なものとした。1500余りの支持部材はCNCミルにより数日で精密に切り出された。支持構造を組み立てながら、その上に仕上げの曲げ合板が職人の手で非常にスムースに打ち付けられた。合理的かつ効果的な建設手法の結果、現場施工はたったの18日間で迅速かつ高い精度で実施された。この施工プロセスを目の当たりにしたのは、人と機械のコラボレーションがシームレスになっていくのを肌で感じる興味深い体験であった。

おそらく、我々のデザインアプローチに潜在する重要な可能性は、フィードバックに対して即時に対応できる柔軟性であろう。全参加者がインタラクティブに多様な関係を生み出すこのソーシャルプロセスにより、アートワークと展示空間の時空の定義は従来の枠や制約を超えて広がっていった。完成したランドスケープは、この流動的なデザインプロセスの一コマである。

フロリアン ブッシュ、2016、東京&ベルリンにて

 

新建築

Title

ベルリンー東京/東京―ベルリン

year

2006

Language

Japanese