リマ市立美術館
ペルー, リマ, 2016
MALI(Museo de Arte De Lima/リマ美術館)のコンテンポラリー・アート・コレクションのための新ウィングは既存の美術館への単なる付け足しではない。公式ブリーフではこの課題の複雑さが指摘されていたものの(「図書館、新ギャラリースペース、教室、オフィス、カフェ、公共広場、将来的には地下鉄駅へのアクセスが可能なこと、美術館の建つ公園のランドスケープ提案などなどが含まれる」)、本当に求められていたのは根本的な方針:面白くも複雑な都会的、文化的なコンテクストへの外科的介入だった。
立地
リマの歴史的中心街の南側に隣接するMALIは、都市交通悪夢により分断された個々の文化施設群の真ん中に位置する:交通量の多い幅広の道路のせいでリマは歩行者にとって不便な造りになっている。原初より川の流れとともに在った(またその存在なしでは語れなかった)この街にとって、劣悪な交通事情によるこう着状態は好ましいものではない。
川
川は、海岸荒原に文明を引き入れるリマの動脈だ。平均降雨量がサハラに匹敵するこの場所では、生命を可能にする水の存在は宗教的側面を有する:夏の間に氷河から流れ落ちる激流の音を、地元の人々は畏怖の念を込めて「Rímac(リマック)話す川」と呼ぶ。これがこの都市の名前の由来だ。
文化
地図を見ると「話す川」の逸話が海岸平野にネットワークを刻み込んだかのように、歴史的中心地リマからミラフローレ(Miraflores)を結ぶ線上には、リマック川と海の間の河口に浮かぶ漂流物さながらに文化拠点が点在している。
立地
新ウィング用地は、都市を構成する様々な建物や道路が集約する場所にある細長い帯だ:東側にはMALIのメインビルディング、既存のエクスポジション・パレス(19世紀のランドマーク)が、南側にはエクスポジション公園、北側には道を隔ててダマート公園、西と北に向かってリマの最も悪名高い道路が数本あり、地下には地下鉄駅とそこを交差する二本の地下鉄路線が建設予定となっている。
インフラとしてのミュージアム
他の(建造)物と足並み揃えて地下鉄駅に接続するギャラリーを提案する代わりに、我々は接続を主目的とするインフラ ー ひいては、新しいタイプのギャラリー体験ができる場を設計した。結果、新ウィングを全て地下に収めるという案はもはや仄かな蓋然性ではなく、道理に叶う唯一の解決策であることが益々明らかになってきた。既存のエクスポジション・パレスが「ハイカルチャー」芸術の理解を代表するものであるとすれば、これとは対象的に、新ウィングは通りがかりの人々が、「ついでに寄って行こう」と気軽に思えるところにしたかった:ミュージアムが静的施設という枠を飛び越えて、オープンな接続用コネクタというインフラ的役割を担うことで、カルチャーが日常生活の一部になる。新ウィングの中心は都市広場(アーバンプラザ)。なみなみと湛えた水に浸かりながらも、外の世界へと門戸を開いている。
地下
古代ペルーの農業システムに地下水路を通じて水を提供する灌漑装置であるナスカの穴。新ウィングのプラザは、さながらナスカの穴のように、目立たない文化資産同士をつなぎ、リマ中心街にアクセス可能なランドスケープを織りなす都市装置だ。
水
路上からは、一見してそれほど顕著な変化はない:実際、プロジェクト発足当初から存在感のあったエクスポジション・パレスは、これまでも、大きな水面を水鏡に上下反転の二重絵を描いてきたが、新ウィングの建設によって本物の二重絵が浮き彫りになる:上から映り込む「古」、下から輝き出る「新」。水が新旧、過去現在の対話の場を提供する。日々の天候や雰囲気により変化する勾配、水面の波紋の中で新と旧が混ざり合う。
(翻訳:山尾暢子)
ペルー, リマ, 2016
Type
Status
Team
フロリアン ブッシュ, 宮崎佐知子, 髙橋卓, 山野友嵩, オリバー パーシャヴ, ジェン ピーラ
構造: ARUP
環境: ARUP
施主: The Lima Art Museum (MALI) (NPO)
Size
延床面積: 7,400 m²
Structure
Acrylic