第3倉庫

北海道小樽市, 2022—

時代を超えて

北海製罐第三倉庫が小樽市に寄贈されたのは2021年のこと。その際に課せられた条件は、かつて小樽の産業全盛期を象徴するこの貴重な建築を、公共の場として市民に開かれた存在へと再生させるという、容易ではない挑戦だった。
「小樽の顔」とも呼ばれる第三倉庫は、広く親しまれている存在感を放っている。それは装飾や象徴性によるものではなく、むしろ徹底した合理性にこそ由来する。市内でも建築面積上位50位に入る規模を持ちながら、その佇まいには驚くほどの謙虚さが漂う。実直な機能美が放つ魅力は、時代を超えて色褪せることがない。

過去・現在・未来

FBAは、この第三倉庫をすべての人に開かれた場とするだけでなく、その空間が本来持つ構造的なロジックや、小樽という都市の変わりゆく文脈の中での位置づけから自然に導かれるかたちで、新たな活用方法を提案した。これこそが真の保存である。


最小限でありながら決定的な介入によって、第三倉庫はもはや過去の遺構ではなく、小樽の未来をかたちづくる原動力へと生まれ変わる。

装置

20世紀初頭、小樽が最も栄えた時代に建てられたこの構造物は、当時の銀行やオフィスのように、表現としての建築として設計されたのではなく、一種の装置としてつくられた。隣接する工場で製造された缶を大量に保管し、出荷の時を待つ——世界へと運ばれる小樽の産品のための、巨大な棚だったのだ。

柔軟性

その意図は外観からも読み取れるが、内部に入ると一層明確になる。膨大な構造的要求は、鉄筋コンクリートの骨格として具現化され、柱と梁が厳格に反復する三次元の格子を形成している。銀行やオフィスが「安定」を象徴していたとすれば、この倉庫は「動き」を体現していた――人間の居住ではなく、一時的な保管のために、つまりモノのために最適化されたインフラとしての建築。
しかしまさにその点にこそ、第三倉庫の可能性が宿る。固定された人間中心の用途に縛られていないこの空間は、物資やプロセスの「流れ」のために設計されている。その開かれた構造は、潜在的でありながらも豊かだ。居住性に対する無関心さが、むしろ柔軟性をもたらしている。求められるのは、この中立性を装飾的なプログラムで覆い隠すことではなく、そっと傾きを変えること――物的機能から人間的経験へと、その重心を移行させることにある。

交流

かつて第三倉庫は、空の缶を格納する棚だった。食品を詰められ、小樽港から世界へと送り出されるための容器たちの待機場所。しかし新たな命を得た今、この建物の中心にはやはり「食」がある――ただし、もはや商品としてではなく、経験として、人と人との関係性を生む媒介としての食である。
新たなプログラムは、地域の生態系を縫い合わせる。1階には四季の市場、北海道の農産物を活かしたカフェやレストラン、料理学校、食を軸としたアートとデザインのキャンパス、そして地域を巻き込むイベントが多層的に展開される。かつて静的な保管空間だった場所が、いまや知識・文化・味覚の交流が行われる舞台となる。

都市の結節点

小樽の旧倉庫街である北運河地区と、南に広がる市街地の結節点に位置する第三倉庫は、その再生によって都市全体の活性化を牽引する存在となるだろう。特に、北運河の終端と廃線となった手宮線の「緑の運河」に挟まれた一帯には、小樽のかつての繁栄を物語る建築群が眠っている。第三倉庫は、過去と未来を現在の中でつなぐ都市的接続点。内容の連続性こそが、未来の遺産を生む。

戦略 I:引き算による加算

ヴォイド(空隙)を加える

床スラブに慎重にヴォイド(空隙)を切り込み、単なる解体ではなく、選択的な「不在」をつくり出すことで、光と空気、そして視線の抜けを導入する。建物は機械的にではなく、空間的に「呼吸」を始める。密閉されていたモジュールが、層を持ち、つながり始める。
既存の窓開口部を拡張する――それは制御された「浸食」の一形態でもある――ことで、海風や光、変化する小樽の空が建物の内部を生き生きと動かす。
我々は「引く」ことで「足して」いる。まさに言葉通り、「少ないことは、豊かである」。

戦略 II:つなぐことによる加算

ネットワーク(経路)を加える

この戦略を補完するために、建物には新たな接続装置が挿入される。ランプ、ブリッジ、コアがコンクリートフレームをそっとなぞりながら、そこに人の流れ、動き、交流の経路を導き入れる。静的なモノのための棚から動的な行動のための空間への変化は、スタイルによる変容ではない。関係性による変化である。
用途は拡張されても、第三倉庫の本質は保たれる。だが、目に見えるものを超えて、いまやその空間は、ネットワーク的に、体験的に開かれていく。

継続するプロセス

「インフラの再活性化」という我々の戦略は、建築を静的な容器としてではなく、進化するシステムとして捉える。第三倉庫において、そのシステムはもはや物流的なものではなく、文化的なものである。
新たに導入される素材――木、鉄、紙、そして食――はいずれも可逆的で非破壊的なレイヤーとして加えられる。建物の未来は、四季のリズム、共同的な使用、そして適応的な開放性に基づく。ここでの建築は、完成されたプロダクトではなく、継続するプロセスである。微細な調整のなかで、そこにいつも潜んでいた可能性を浮かび上がらせる――それが、第三倉庫の再生である。

 

北海道小樽市, 2022—

Type

複合施設, 飲食店, 教育施, 商業施設, 文化施設

Status

基本構想

Team

フロリアン ブッシュ, 宮崎佐知子, ヨアキム ナイス, 島玲旺, 大澤祐太朗, C. バウムガーテン, 陳協志, 重村茉代, ジェン ピーラ, 米山昂佑

構造: 川田知典構造設計 (川田知典)

プロデュース: Otaru Creative Plus

施主: 小樽市

Size

延床面積: 6,288 m² (+ 4660 m² バルコニー と 屋上デッキ)

Structure

鉄筋コンクリート造

(新規増築部分は鋼材・木材・ガラス)

第3倉庫
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