伊豆高原のI邸
静岡県伊東市, 2019—2021
様々な用途を盛り込んだが故に、逃避するはずの日常生活のレプリカを作ってしまうという落とし穴に陥ることがしばしばあるが、このプロジェクトの意向は「都会の家族が週末を過ごすための小さなシェルター」という、立地同様にシンプルで慎ましいものだった。
近隣環境
この敷地を最初に訪れた時、なぜ景観について概要に触れられていなかったのかが分かった。事前分析から推測した通り、実際に茂みの奥深くに埋もれていた。それでも、それがこの別荘の重要な要素になり得るし、そうであるべきだと考えた。
景色は、どれも例外なく冒険のない近隣の建物によって隠されている。周囲の環境を考慮して家を設計するという考えが、なぜ誰の頭にもほんの一寸でも浮かばないのか理解に苦しむ。労力がかかり過ぎるのだろうか?無視するには明白すぎるポイントだと思わざるを得ない。善意と表面的思考がマンセル表と屋根の勾配に焦点をあてた規則とガイドラインを作り出し、本質が忘れられている。
妥協とフィルター
敷地のサイズは、この辺りでは典型的な土地の大きさだ。600平方メートルという広さが与えてくれる緑の量は、逃げ出してきた都会の窮屈さを忘れるには十分だが、周囲の事物を全て忘れ去るには不十分だ。典型的な「別荘」用地であるこの場所で出会う「自然」は「妥協」を意味する。実際、ここで目にする自然も近隣の家々も、「隠遁」と言うには程遠く、「郊外」を彷彿させる。家々の合間に見え隠れするのは割と近くにある山と彼方の海。(景色の焦点である大室山は、実際北へ2.5キロほどのところに位置する。毎年枯れた草を焼いて新しい緑を育てるという700年も昔から続く伝統行事の山焼きが有名。)この領域内で幸せを手にするには「濾過(フィルター)」が必要だ。
見え隠れの仕掛け(台地から台地から台地へ)
この別荘エリアが開発された時に、斜面に切り取られた数々の小道がある。それにくっついてきたのが、その道を見下ろす形で切り取られたアクセスの悪い台地の数々だ。敷地から道までは悠に5メートルの高低差があるが、近隣の家々も同じ高さだ。道に面した側の景色こそ保護されているものの、反対側の景色は隠す手立てが必要だ。同様に重要なのが、離れたところに待機している自然という資産を視界に取り込む仕掛けだ。
短期滞在
別荘で家族が過ごす日数が短いことが、我々に自由を与えてくれる。つまり、続けての滞在日数が多くて数日であるため、日常生活でこそ不便と感じられることでさえ、当たり前に我慢できる程度のこと、もっと踏み込んで言えば「好ましい」状況と捉えることが可能になる。
傘の下に階段
急勾配の幅の狭い階段で道から敷地へのアクセスを確保。そこから家の中心部に据えた柱を旋回する螺旋階段を次々に登っていく形で家が展開する。この柱の行き着く先はパッと開かれたパラソルを彷彿させる屋根。グラウンドレベルでは、屋内の床が、外の広々としたテラスとその先の庭へとつながっていく。家の中心の螺旋階段を登っていくと、途中で足を休めて寛ぐための場に出会す。天然の温泉が湧き出るお風呂場が唯一の閉じられたスペースだ。家全体は一つの空間で、それを取り囲む四つの壁には幾つもの窓が慎重に配置されている。
ギャラリー
周りの壁は、境界線ではなく、慎重に配置された窓によりフレームと捉える。ここはギャラリーなのだ。屋外の景色が生けるアートに生まれ変わる。上へ登るにつれ、複数の視線が交差する格好で洗練された視界が広がるとともに屋内空間が広がっていく。小さなシェルターがどんどん大きくなっていく。
(翻訳:山尾暢子)
静岡県伊東市, 2019—2021
Type
Status
Team
フロリアン ブッシュ, 宮崎佐知子, 重村茉代, 大澤祐太朗, 山野友嵩, ジェイミー エデン
構造: 川田知典構造設計 (川田知典)
施工: 大同工業株式会社
Size
延床面積: 77 m²
テラス部分: 44 m²
Structure
中心の柱+螺旋階段・床スラブは鉄骨






























受賞
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