ヒラフ・クリークサイド

北海道倶知安町ヒラフ, 2021—

ニセコ広しといえども、ヒラフの密度の高さは格別だ。
量を重視した別荘地開発とホテルの乱立が数十年続いた結果、休息を求める都会の住人を窒息させるような窮屈な郊外の街に様変わりしたヒラフには、皮肉にも人々が求めて来たニセコの大自然との断絶がもたらされた。

予想外の場所

そのため、ヒラフの中心街に4棟のビラからなるプロジェクトを打診された時、我々の期待値は低く、ためらいは大きかった。実際にここを訪ねるまでは、だ。

実際に用地を歩いてみて初めて、なぜこれまでこの場所が手付かずだったのか納得した。
ヒラフの目貫通りに面した立地にも拘らず、道側からは隠れた構造になっていたからだ。
アンヌプリ山から流れ出し道路を横切る小川が切り出した、小さいながら看過できない谷を含むこの用地は、3000平方メートルの急勾配の水辺の土地であった。

課題と機会

同用地の北東の境界線は羊蹄山から直接流れ出す小川によって区切られている。
唯一の平地である10メートル幅の南西の境界線が、アクセス道路になっていた。
小川に沿った細長い用地で皆が求める眺望を手にできるのは、羊蹄山に最も近い部分のみということになる。
水辺を下へ下へと辿ってみると、意外なことが分かってきた。谷に降りると、これまで耳目を騒がせていた周囲の町の眺めや喧騒が姿を消した。
直感に反する事実が、自明の理となる。
水の流れに沿って坂を下るにつれ、羊蹄山の眺めがどんどん開けていったのだ。この急な勾配が提供する高低差は、難しい課題と同時に、またとない機会を提供してくれる水辺の宝物だった。

少ないほど豊かである

我々はヒラフを加重負荷に導いた飽くなき量の追求をやめて、4つのビルディングが互いの価値を高めながらアンサンブルとして存在するための戦略を提案した。
最南端に配置したヴィラDは、傾斜を下りながら限りなく小川に接近する。大きなボリュームを片持ち梁にすることで、水辺エリアを尊重しつつ小川近くの屋外スペースに広がりを持たせた。
ヴィラCは中央の木々を避けつつ、傾斜の頂上近くに止まり、ヴィラD周辺とその上に広がる景色を手に入れる。 ヴィラBとAは同じように配置されている。
4つのビルディングは十分な容量を保ちつつ、フロアエリアの許容範囲を超えることはない。ビルのサイズを限定し、用地の最大の資産である自然環境を遮断せず取り込むことで、最大限のスペースを手に入れた。

イマーション

近づいてみると、この建物は用地の特性を無視したものではなく生かしたものであることがすぐさま明らかになる。取ってつけたような代物ではない、環境の一部として存在するデザインだ。
両脇をスロープで挟まれ、背の高い木々の屋根に覆われたこの場所は、すでに棲家の様相を呈している。建築的な応答の鍵は、この本質を守るのに十分なことをすること。少しずつずらして重ねられた箱によってできた広いテラスや周辺スペースを通って、周囲の地形へのアクセスを得る。
中に入って階段を降りてみよう。このヴィラが、環境との対話の中に一連の流れとして存在することに気づくだろう。屋外が屋内に流れ込み、開口部と多様な高低差が、我々の視点を導いていく。
建物の中を歩きながら、地形を足の裏で感じられる。
素材のシンプルさが 空間上の複雑を引き立てる。
挿入された非構造壁の木肌を補完するように、木目の残る打ちっぱなしのコンクリート面が地面とつながる様は、地面に直接くり抜かれた空間のようだ。
他のことは全て忘れて真の主役である周辺環境に注目しよう。南東の大きな開口部の先には羊蹄山が悠々と鎮座している。足元には遠慮がちに目を喜ばせてくれる小川の姿もある。
窓はあえて低めに設置し、視線を小川へと誘う。窓を開ければ、小川のせせらぎや葉ずれの音が耳目を潤す。
ヒラフ中心街の喧騒に囲まれた立地を忘れさせるようなアンビエントが我々を包み込む。コンクリート壁で遮断された建物の中に閉じ込められたのではない。このヴィラの中で、我々は大自然を肌で感じ、周囲環境に溶け込んで、山々を駆け巡る旅の途上を体験する。

(翻訳:山尾暢子)

 

北海道倶知安町ヒラフ, 2021—

Type

住宅, ホテル

Status

実施設計

Team

フロリアン ブッシュ, 宮崎佐知子, ヨアキム ナイス, C. バウムガーテン, 大澤祐太朗, 山下ジロ, 島玲旺

構造: 川田知典構造設計 (川田知典)

Size

延床面積: 1,096 m² (total for four villas)

Roof terraces: 364 m²

Structure

鉄筋コンクリート造
ヒラフ・クリークサイド
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