森の中の家

北海道蘭越町, 2017—2020

同プロジェクトは約3ヘクタールの手つかずの森から始まった。ニセコスキー場がほど近いにも関わらず、静寂が残るこの敷地は、有名なニセコスキー場周辺の幾つかの町がスプロール化により郊外都市的な混沌を呈するようになったのに対するアンチテーゼでもある。

孤独

施主とその大家族は、この地域の美しさに魅了される一方で、益々郊外的な様相を呈する近隣町の喧騒を避けるために、この孤独な森に隠れ家を求めた。結果、家そのものより、森の中で森と共に過ごす時間が今プロジェクトの焦点となった。

この敷地は一辺160メートルのほぼ完璧な正方形で、背の高い松の木が茂っている。敷地周辺の土地が盛り上がっており、近づいても外からの視線は遮られる。唯一のアクセスは、何年も前に敷かれた、一段下がった場所に走る北側の境界線に沿った小さな道だ。
この「小山」を乗り越えると、樹木に囲まれた敷地に入る。緩やかな下り斜面が南に向かって100メートルほど続き、急な坂道に差し掛かる手前で南側境界に突き当たる。中程に、西側境界に向かって拓けた空き地がある。

直感

木々の間を縫って歩くと好奇心が喚起される。歩きながら周辺を探ってみる。少しの移動で視界の奥行きが変化する。先ほど見つけた拓けた空き地だけが、樹木を抽象的背景とするだけの距離が取れる唯一の地点であることが分かる。もしこの空き地の真ん中に家を建てたなら、360度全方向が背景になってしまう。我々は、境界線に沿った木々の合間を、木々に守られながら、さらに散策してみた。

建物は水平方向に枝分かれする。家の中を歩けば、森の中を散策しているような錯覚に陥る。目前の森から彼方の森へ。森はここで、手に取って触れられる存在であると同時に遠い背景でもある。
枝分かれした先は、切り取られ、開かれている。枝の先に向かって進むにつれ森へと誘い込まれる。壁によって内と外が分けられ、家によって守られているという物理的な安心感とは裏腹に、森に向かって開かれた窓を通して森との関わりが凝縮され、鮮明になる。我々は森の中に座っている。
家の背骨とも言える中心部では、先端部での凝縮された景色に代わり、瞬時に多面的景色を見ることが出来る。様々な森の景色を取り込んだこの家の中では、この森に初めて足を踏み入れた時の体験がいつも存在している。

対話

森の中の家の特徴は、一定の形ではなく、刻一刻と変化していく森との対話にある。その結果生まれたのが、家族の一人一人が、一緒に暮らしつつ一人一人の時間も持てる場所。そして、森の一部になれる場所だった。

(翻訳:山尾暢子)

 

北海道蘭越町, 2017—2020

Type

住宅

Status

竣工

Team

フロリアン ブッシュ, 宮崎佐知子, 重村茉代, ルカ マルッリ, テニーシャ ケイトン, マックス マデック

構造: OAK (新谷眞人, 藤本貴之)

施工: 脇坂工務店

Size

延床面積: 230 m²

Structure

木造

(timber frame on raised reinforced concrete slab)

森の中の家
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受賞

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