永田台の「内にひらく家」

埼玉県飯能市永田台, 2021—2023

日本大手デベロッパーの一つであるクライアントからリクエストされたのは、FBAが10年前に建設した「郊外のプロトタイプ」的家を原型とし、さらに将来の開発の可能性を秘めた住宅群の第一号となってくれる一軒家であった。

グレー・グリーン・エコトーン

この用地は典型的「郊外」とは異なるエコトーン(移行帯)にある。都心から北西に40キロ離れたこの土地は、コナベーション(大都市圏)の「グレー(灰色)」と、未だ手付かずの日本の山脈「グリーン(緑)」とが出会う接点にある。電車の便も良い山に程近い町(池袋40分圏内)である飯能は、人口減少が著しい国内でも数少ない人口増加都市となっている。
しかし、今回も10年前に我々が直面した郊外のジレンマを免れるものではなかった。

郊外と言っても日本の地価は高水準で、平均的家計の購買力では、一軒に与えられた土地の広さは自ずと100から140平米の面積に限られてくる。その土地に、家が建蔽率ギリギリまで建てられ、建物の周りには緑の庭の代わりに剥き出しの諸設備の端切れが置かれることになる。
人々は「一軒家」への夢を求めて郊外に集まり、結果、グリーンを食い尽くすようにグレーエリアが広がっていく。グリーンを侵食するグレーの勢いを食い止め、さらにはグリーンを引き戻すことがどれくらい可能か?というのが、このエコトーン(移行帯)における最大の課題とも言えよう。

50% ≠ 50%

今回の用地も2012年に我々が建てたプロトタイプに酷似していた。この開発予定地はかなり急な傾斜地であったため、道路側から土地一筆一筆に車寄せのドライブウェイが作り付けられている。その結果この用地は周りの道路より1メートル半ほど高くなっており、北側からの車寄せがアクセスであるというのが既存の条件であった。
このエリアの最大建蔽率は50%。通常、建蔽率50%と言えば、建物とそれを取り囲む残り部分という風に捉えがちであるが、我々は視点を変えてみた。建物を境界線ギリギリに寄せることで、占有面積に新たな幅を持たせ、土地の持つ新たな可能性を引き出すというのが我々の戦略だ。

緑のVOID

土地に乗っかっている大きな立方体は実はU字型の塊二つを重ねたものだ。ドライブウェイの上に乗せられた片持ち梁の大きなボリュームに囲まれる格好で、この建物の中心部分が見えてくる:緑で埋められた中心に配置されたVOID(空っぽの空間)がそれだ。内庭を囲んで、流動的な高低差を伴う平面上に内部スペースが流れ込む。
道路とドライブウェイと同じ高さにある入口部分が、土地の切り口の延長線となっている。そこから何段か登った辺りで住居部分が始まる。音楽室兼プレイルームが、半階上のキッチン・ダイニング、リビングに流れ込み、さらにその先にラウンジと書斎が半階上に続いている。どの階においても、流動的ゾーンの隅がプライベートゾーン(バスルームや寝室)になっている。
南東の角にある開口部はルーフガーデンにつながる階段が設置されたテラス。甍の波を見下ろすこのルーフガーデンからは、遠く雄大な山脈の景色が楽しめる

微気候

真ん中の空っぽ空間には、言わばミニチュアの気象地帯が出現した。内庭に面した大きめの窓からは、中央の落葉樹を透かして東西南方向から差しこむ日差しが楽しめる。二つのU字型のボリュームが異なる方向に開かれ、重ねられたことで、風通しも良く、両方向から中央の庭を通り抜けるそよ風を感じることができる。悪名高い日本の夏の猛暑時にも、この自然の通気孔のおかげでエアコンの負荷を劇的に軽減することができた。

繋がるということ

家周りの「その他の部分」が最小化されたことで、「本当の庭」が日常の一部となった。隣接する隣屋の存在も気にならない。屋内に屋外が共存するこの家の空間は、近隣の家々と「床面積」こそ同じだが、明らかに広く感じられる。ここで過ごす日常は、孤立とは程遠い。家を取り囲む自然環境を肌で感じられるゆったりとした時空がここにある。

暮らす環境

この郊外都市にはまだチャンスが残されている。我々のシンプルな提案は、将来のマスタープランの可能性を拡げる風穴になり得る。諸々の法規制に杓子定規に従った、硬い塊りのような「一軒家」ではなく、規制に従いつつもその規制を変える力をも内在した「柔らかな住まい」が、LIVING ENVIRONMENTS「暮らす環境」を目指す開発の道筋を示しているかもしれない。

(翻訳:山尾暢子)

 

埼玉県飯能市永田台, 2021—2023

Type

住宅

Status

竣工

Team

フロリアン ブッシュ, 宮崎佐知子, 重村茉代, 米山昂佑

構造: 川田知典構造設計 (川田知典)

施工: 諸井工務店

施主: 西武リアルティソリューションズ

Size

延床面積: 144 m²

バルコニー: 11 m²

ルーフテラス: 67 m²

Structure

木造
永田台の「内にひらく家」
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